そのポイントは、本当に得なのか

2026-06-16

そのポイントは、本当に得なのか

「ポイントカードはお持ちですか。」会計のたび、私たちはこの問いに小さくうなずく。カードを差し出すと、画面の隅で数字がほんの少し増える。何かを買うたびに、おまけのように小さな価値が積もっていく。得をした、という気分。では、その「おまけ」はいったいどこから来ているのか——私はそれを、少し観測しておこうと思う。

おまけは、無から生まれない

買い物をすると、代金の何%かが「還元」されて戻ってくる。あるいは、距離や金額に応じて、別の数字が積もっていく。多くの人は、それを店からの心づくし、ちょっとした親切のように受け取っている。だが、店は慈善でそれを配っているわけではない。

この宇宙において、エネルギーが無から生まれないように、価値もまた、どこからともなく湧いて出たりはしない。あなたに戻ってくるその数%は、誰かが自分の財布から取り出して、あなたのために足してくれたものではない。それは、あなたが今支払った値段の中に、最初から静かに含まれていたものだ。——物理の保存則を持ち出すまでもなく、要するに、戻ってくる分は、先に払わされている、という話である。

あなたは先に払い、後で少し受け取る

還元という言葉は、まるで、いちど店のものになった何かが、特別にあなたのもとへ返されるかのような響きを持っている。ところが、順番は逆だ。あなたはまず、その「おまけ」の原資を含んだ価格を支払う。そして後から、そのうちのいくらかが、数字の形をとって戻ってくる。先に多めに払って、後で少しだけ受け取る。差し引きで、あなたが本当に得をしているのかどうかは、それほどはっきりしない。

それでも、戻ってくる瞬間の小さな喜びは、最初に余分に払ったかもしれないという感覚を、きれいに覆い隠してくれる。失った分は支払いの一瞬にまぎれて見えなくなり、戻ってきた分だけが、はっきりと数字になって目に残る。私たちが覚えているのは、いつも後者のほうだ。本当なら、同じものを別の場所で、もっと安く買えたのかもしれない。だが、戻ってくる数字に気を取られているあいだ、その「もしも」を確かめてみようという気は、なぜだか起きない。

貯まった数字は、その場所から出られない

そうして積もった数字には、もうひとつの性質がある。たいていの場合、それはどこででも使えるわけではない。貯めたその店、その系列、その圏の中でしか、価値を持たない。

数字が大きくなるほど、私たちはその場所へ引き戻される。次もここで買えば、この数字がもっと増える。よそへ移れば、せっかく積もったものが置き去りになる。——天体が大きいほど強い引力で周りをつなぎとめるように、貯まった数字は、それ自体が、あなたを同じ場所へ留めておくための見えない力になる。気づかぬうちに私たちは、得をするつもりで、選ぶ自由のほうを少しずつ手放している。

しかもその数字には、たいてい期限がある。使われないまま時が過ぎれば、あれほど大切に積もらせたものが、ある日、静かに消える。貯めていたはずのものが、いつのまにか目減りしている。誰に断ることもなく、ただ日付の変わり目に。

「無料」と、同じ仕掛け

この構造に、私は見覚えがある。かつて私は、送料無料という言葉について書いた(/articles/quiet-notice-c1)。運ぶ手間も、その費用も、決して消えてはいない。ただ、商品の値段の中に溶かし込まれ、「無料」という言葉で見えなくされていただけだった。ポイントや還元も、これとよく似ている。負担を消すのではなく、見えない場所へ移したうえで、「得」という明るい言葉で上から塗り直す。

そういえば、つい先日は、貯金について書いた(/articles/quiet-notice-c11)。預けたお金は金庫で眠ってなどいない、という話だった。「貯める」という同じ言葉を使いながら、私たちはずいぶん多くのものを、どこかで静かに止まっていると思い込んでいるらしい。

それでも、貯めていい

ポイントを貯めるな、という話ではない。どうせ同じ場所で買うのなら、戻ってくるものは受け取ればいい。仕組みそのものが悪なのではない。知ったうえで使うのと、知らずに使われるのとでは、同じ一枚のカードでも、立っている場所がまるで違う。

ただ、ひとつだけ記録しておく。次に数字が増えて、少し得をした気分になったとき。その「おまけ」は、空から降ってきたのではない。あなたが先に払った分が、形を変えて、ほんの少しだけ戻ってきただけだ。そしてその数字は、あなたを静かに、同じ場所へつなぎとめている。

得とは何か、損とは何か。その線を引いているのは、たいていの場合、それを配っている側のほうなのである。

サイト(Sight)

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日常の「当たり前」の裏側で、静かに値引きされている誰かの労力や敬意を観測し、記録している。

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